歌野晶午

□ 密室殺人ゲーム王手飛車取り  講談社ノベルス あらすじ  奇妙なニックネームを持つ5人がネット上で殺人推理ゲームの問題を出し合っている。密室、アリバイ崩し、などなど。 ただし、普通と違うのはここで語られる問題は出題者によって実行済みだった……。  とにかく設定に惹かれました。5人のメンバーがテレビ会議機能を使ってチャットを行い、殺人に関する問題を出し合っ ている。それに対し出題者以外が、密室、アリバイ、ダイイングメッセージなどの謎を解くために推理する。  私がネトミスでやっていた事に近い設定だったので、これは読まねばと衝動買いしました。もちろん我々は実際に犯行を 行ったりはしていませんが。  この話の根本的な問題として出題者は実際に犯行を行う必要がないのでは? というものがあります。どんな理由がある のかと思いましたが、その点についてはあまり掘り下げて書かれなかったのが残念でした。  ネット上でやりとりする非現実感や現実と仮想空間の区別がつかない連中ということなのかもしれません。自分の犯行を 語る様子もそういった感じです。しかしそれだと納得できない展開もあったりしてちぐはぐな印象を受けました。  あと、出題者の出す問題もだんだんとおもしろみに欠けることになり、問題については竜頭蛇尾だったと思います。  ただ、設定から想像されるようなバカミスとかトンデモではなく、しっかりと作られたミステリでした。 読み終わった後に思い返すと疑問に思うこともありましたが、読んでいる最中はあまり気にする暇もないくらいに話に引き 込まれました。 ネタバレ  出題者たちの、よりすごい問題をという欲求、特に主人公の欲求を満たすためにしだいに問題もすごくなっていかないとい けないはずです。そのわりには終盤の問題がビデオチャットという状況から最初に想像するようなトリックをそのままだっ たのはいまいちでした。最後に頭狂人が爆弾を使ったゲームをするのも盛り上がりませんでした。登場人物が盛り上がるの とは逆に私の興奮は冷めていく感じでした。  最後に他のメンバーは何をそんなに迷っているのか不思議でした。今までの言動からすればすぐに立ちそうだったのです が、疑問です。迷っていても結局は立ち上がるしかない、というところが王手飛車取りなのでしょうか。というか頭狂人が 立って爆弾解体すれば良いだけのような気がします。  密室殺人ゲーム2.0  講談社ノベルス あらすじ  奇妙なニックネームを持つ5人がネット上で殺人推理ゲームの問題を出し合っている。密室、アリバイ崩し、などなど。 ただし、普通と違うのはここで語られる問題は出題者によって実行済みだった……。  シリーズ第2弾。表紙折り返しで作者が映画「ソウ」を引き合いに出しているあたり 第3弾、第4弾と続くシリーズになるのでしょうか? 是非続けてほしいシリーズなので 期待がふくらみます。  1冊書くのにトリックをチャット参加者分作らなくてはいけないのでネタの量的に大変 そうです。本作でも面白いトリックがたくさん使われていて、読み進めるのが楽しかっ たです。  本作で、確かに作者の言うとおり世界が広がっていると感じました。この世界を共有 して別の人に話を書いてもらっても面白そう。  話の展開は前作以上に興奮を覚えました。それにしても人間というのは懲りないなぁ と、あきれつつも微笑ましかったです。  起承転結の「承」といった印象で、前作が楽しめた人は本作も楽しめるのではない でしょうか。 2009/10/22  そして名探偵は生まれた  祥伝社文庫 あらすじ  「そして名探偵は生まれた」「生存者、一名」「館という名の楽園で」「夏の雪、冬のサンバ」を 収録した短編集。一味変わった密室、孤島、館、アリバイ崩しモノを楽しむことができます。  さくさく読めて一味違う、気軽に楽しめる本でした。期待しすぎると後悔するかもしれませんが ちょっとした時間に1話ずつ読むのに適しているかもしれません。  どうやら私は鳥飼否宇さんの「非在」(2002年)のように絶海の孤島ですでに起きた事件を推理す るという状況が好きなのか、「生存者、一名」(2000年)も楽しめました。  ただ、「非在」のほうが長い分描写も細かく推理の展開も面白いです。「生存者、一名」が気に いった方は「非在」もおすすめだと思います。  「館という名の楽園で」は推理小説好きが高じて館を建ててしまった男の話で、推理小説好きの つぼを心得た内容でした。  一味違うとの裏表紙のあおり文句ですが、ほんとうに一味なので期待しすぎない方が良いです。 2009/12/24
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