坂木司

■ 青空の卵   創元推理文庫  帯文句「名探偵はひきこもり」 ひきこもりプログラマーとその唯一の親友との日常のミステリを扱った短編集  こういう主人公の男同士が強い依存関係にある話を読んだのは初めてでした。男の 友情といったものとは違う世界です。かといってやおい要素はありませんが。  作品のテーマは人間関係における弱さと成長だと思います。 あと主人公の片方はいわゆるツンデレというのも目新しかったです。    いわゆる日常のミステリという謎を期待するとかなりがっかりするかと思われます。 たいていの日常ミステリだと普段の生活で起きるちょっとした違和感から魅力的な謎が 展開する事が多いですが、この作品では登場人物達が一体なぜそんなに不思議に思って いるのかそちらの方が大きな謎に思えます。  伏線から真相を当てるというより、真相が見えてから伏線を探すといった内容です。    この作品ではミステリはおまけ程度に考えていた方がいいかもしれません。本題は主 人公二人の成長です。この青空の卵はひきこもり探偵3部作の第1弾なので大きく成長し たとはいえないですが、成長の過程がうまく表現されているのではないかと思いました。  最近あまり主人公の成長を感じられない作品ばかり読んでいたのでその点は良かった です。    読んでいて一番気になったというかうんざりした点は、途中で展開される思想です。 各話に合ったテーマで語られていますが、その基本的な姿勢は、日本は悪で外国は善、 男は加害者で女は被害者、今の日本の文化は薄っぺら、といったものです。  確かに共感できる部分もありますが、いかんせん文章量が少なすぎて中途半端な 考えにしか感じられません。  ただこれに関しては思想を語る主人公と作者の名前が同じでなければさほど気に ならなかったかもしれません。主人公と作者の名前が同じということで押し付けがま しさを感じます。    独善的な印象もありますが、弱さを抱えた人間の成長物語としてはいい作品です。 ミステリとしてはいまいち。もし次回作が文庫化されたときに買うかどうかも難しい ところです。  切れない糸 創元推理文庫  家業のクリーニング店を継ぐこととなった新井和也。周囲の人々に助けられながら、 店に持ち込まれた謎を解決していく。  物語の進行スタイルは、主人公和也が謎に出会い、友人の沢田に相談して事件を解決し てもらうというものです。    謎はクリーニング店らしく持ち込まれた衣服から始まります。そのときに語られるクリ ーニングの知識は不必要に長くなくちょうど良い長さでためになりました。    主人公と沢田の友情は適度な距離感を保っていて、ちょうど良く感じました。    日常の謎系で驚天動地のトリックというモノはありませんが、裏表紙にあるように爽や かな物語で楽しめました。 2010/02/17
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