大沢在昌
■ 新宿鮫
あらすじ
「新宿鮫」と怖れられる新宿署刑事・鮫島。歌舞伎町近辺で警官が連続して射殺される事件が起きる。
一方、鮫島は銃密造の天才・木津を追う。
主人公である鮫島が恐れられるゆえんや、単独行動など、警察組織とその業界の隠語など大量の情報
を書くことによってリアリティを高めていたと思います。
ただ、現実的すぎて事件自体は地味というか、新聞記事を読んでいるような味気なさを感じてしまい
ました。それでも自分のまったく知らない世界をかいま見ているようで退屈せずに読み進むことが出
来ました。謎といった謎は出てこず、読者がなんとなく予想する通りに話が進みますが、そこに至ま
での証拠固めといったところを楽しむ作品だと思いました。
主人公が警官であるため、当然のように拳銃が出てきて探偵モノのハードボイルドよりは緊張感が高
めでした。アメリカのハードボイルド作品ならば探偵でも銃を持つことが出来て緊張感を高めること
が出来ますが日本だと難しいですね。探偵が主人公の方が、悪党と警察という市民の大嫌いな存在を
やりこめたり出来て爽快な感じになりそうです。
鮫島も警察組織から疎まれている存在ということでは、その爽快感を狙ったものなのでしょうか。
1990年の作品と言うことで時代を感じさせる話ではありましたが、鮫島の活躍を読むのは楽しかっ
たです。
それにしても、やはりハードボイルドは大都会が舞台じゃないと駄目ですね。新宿や環八が、山田村
やスーパー農道だと様にならないです。農村ハードボイルドというジャンルで村八分同然の主人公が
村長の座を巡る権力争いに巻き込まれたり、畑を荒らす猿と戦ったり……。
■ 新宿鮫U 毒猿
あらすじ
新宿署刑事・鮫島は、完璧な「職業兇手」(殺し屋)が台湾から潜入していることを知る。
鮫島は、恐るべき人間凶器の暴走を止められるのか?
前作よりも話が大幅にスケールアップして、派手な事件になっていました。その分リアリティと
いう面では、完全に非現実的で、前作ほどの緊張感もなくご都合主義的な話になっていたのは残
念です。しかしハリウッド的エンタテイメントとしてなにも考えずに読む分には、非常に面白い
話でした。
ただ、活躍するのは毒猿と呼ばれる殺し屋の方ばかりで、対をなすはずの鮫島は脇役並の存在感
しかなく、本作の主人公は毒猿になっていました。
他にも登場人物の行動について理解できない部分が多く、説明不足という感があり、なんでこう
なるんだろうと考え込んでしまうことが多く一気に読み進めることが出来ませんでした。
次回作は地味で現実的な話が読みたいです。