我孫子武丸

 弥勒の掌   文春文庫 あらすじ  妻を殺され汚職の疑いをかけられた刑事。妻が失踪した教師。2人はこの事件に関与が 疑われる宗教団体の捜査を始めたのだが……。  本格捜査小説。驚天動地の結末があなたを待つ。  容疑者Xの献身は本格か?論争で引き合いに出されていた作品を読みました。 客観的な評価では容疑者Xは本格の要件を満たしているようですが、個人的要件である 本格=面白いが満たされていないので容疑者Xは本格と思っていません。その論争の中 で弥勒の掌を作者の我孫子氏は非本格といい二階堂氏は本格といったりしていたので 内容が気になっていました。  裏表紙の文句が本格推理ではなく本格『捜査』になっているあたり、本格論争に対す る立ち位置をはっきりさせておこうというような意図を感じます。  推理を元に行動して話を展開させるというよりは、とりあえず調べていくという内容 なので本格捜査というのはあっています。  他の可能性をつぶすことなく作者の用意した真相を受け入れることになるあたり、本 格ミステリとは違うと思いました。  話はずっとシリアス。そして宗教と警察という私が大嫌いな要素を多く含んでいて、 最後まで読めるか心配でした。しかし、捜査が進むにつれじわじわと謎が解ける展開の おかげで投げ出さずに読み通すことが出来ました。  かまいたちの夜などのゲームに参加しているだけあって飽きさせない書き方だと思い ました。  綿密な警察取材とある割には、知識をひけらかすようなことはなくさらりと書いてあ るだけなのもいい。  まとまった時間を読書に当てられないときに少しずつ読むのにお勧めかと思います。 2008/07/09
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